2019/1/13 第62回 まさかのお話(2)

続き(前回の話はコチラ

応接室へ戻った私は、岡田さん(仮名)の情報を聞き出すことにしました。

「あの、失礼ですが、売主様への報告もありまして、いくつか質問させて頂きたいのですが、
本体価格9,800万円のほかに、仲介手数料、登記費用、収入印紙などの諸経費を含めますと、
10,300万円程のご準備となりますが大丈夫でしょうか?」

岡田さん(仮名)「実は、今手元に現金2,000万程しかないので、足りない分を分割で払いたい」

「住宅ローンということでしょうか?」

岡田さん(仮名)「いや、分割で。半年から1年の間に4回か5回に分けて払いたい。」

なんと岡田様(仮名)は残りのお金を分割で支払うというのです。
過去の経験上、イレギュラーな提案をしてくる方は大体怪しかったりします。

私は慎重に進めないと売主様に迷惑かかるし社内的にも問題になると思い、
会話しながらもう少し探ることにしました。

「あの、分割となると通常は住宅ローンをご利用されます。
ですが岡田様は現在無職ですから住宅ローンのご利用は難しいかと思います。
そうなりますと現金一括でお買い上げ頂くしかないのですが、ご用意はできませんか?」

岡田さん(仮名)「それが無理なので、分割で払うことを売主に交渉してほしいのです。」

「あくまで「仮」にですが、分割の支払い条件で売買契約を結んだとして、
残りのお金を確実にお支払い頂ける確証がなければ売主様も安心できませんので、
おそらく売主様に応じて頂くことは難しいかと思います。」

手付金、中間金、残代金と分けて契約は出来ますが、なにせ素性や購入動機が分からないし、
お金もあるかも分からないので安易に進めることは出来ません。

岡田さん(仮名)「では支払いできる確証があれば交渉してもらえるんでしょうか?」

「そういう問題ではないのですが…、ちなみにお支払いできる確証は何かあるんですか?」

岡田さん(仮名)「今すぐは払えないけどお金は持ってます」

「どういうことでしょうか?」

岡田さん(仮名)「資金を運用してます。」

「いくらですか?」

岡田さん(仮名)全部合わせて1億くらい。

「え?」

岡田さん(仮名)「そのくらいはあります。」

「、、、もし、そのお金がご用意できるのであれば何の問題もありません。
現金のご用意ができればわざわざ4、5回に分ける必要はありませんし、、、」
(1億運用とかほんとかよ!?ますます怪しいな、、、。)

私はとにかく通常の取引に持っていきたいと思い、分割の話を回避することと、
本当に購入できる資力があるかを確認することにしました。

「一般的な流れを申しますと、売買契約時に手付金を約10%、
残代金の支払時に残りの90%をお支払い頂くことになります。

ただし、残代金の支払いが出来ない場合は契約違反となり違約金が発生します。
資金を運用中とのことですが、岡田様(仮名)にとっても資金をご準備頂き、
確実に支払える状態になってからのほうが、違約金を支払うリスクが無くなり、ご安心頂けるかと。」

岡田さん(仮名)「なるほど」

「いずれにしろ現時点では現金が無いとのことですので、何かを売主様に交渉するにしても、
購入できる状態でなければ売主様も私共としても対応が出来かねます。
預金通帳であるとか、資金を運用されているのならば、それを証明するものはありませんか?」

本来ならば現金を持っているかどうか確認はしませんが、何しろ現在就職活動中で、
1R賃貸に住んでいる方が来店していきなり9,800万円のマンションを買うという滅多にない話なので、
私は大手の看板を狙った反社会的勢力やマネロンの類なのではないかという疑いを持ち、
失礼を承知で運用資金の証明を求めました。

岡田さん(仮名)「わかりました。では証明になるものを準備しますで、少し時間をもらえませんか?」

「もちろんです。ありがとうございます。それではご連絡をお待ちしております。」

そうして岡田さん(仮名)は帰っていかれました。


数日が経ちましたが岡田さん(仮名)からの連絡はありません。
社内でもちょっとした話題になっていました。

私にスルーパスを出した先輩がニヤニヤしながら聞いてきます。

先輩 「おぅ白石、この前のあの客どないなん?(笑)」

「いや、特に連絡ないです。」

先輩 「ホンマに買ったらスゲーな!飛込みでいきなり9,800万円とか!」

「そっすね、、、(コイツっ(怒)」

先輩 「多分ないやろけど、ま、頑張れよ(笑)」

「はい…。」

まあ確かに決まったらすごいな、飛込来店でいきなり買うとか、、、。
手数料300万円、、、多分ないやろな、、、冷やかしとかたまにあるし、、、。

そう思いさらに数日経ったある日。

「プルルルルルル。」

私の携帯が鳴りました。

続く。